独立を機にITコーディネータを取得した結果。~ITコーディネータ 濱崎 利彦
中小企業という世界
皆様、はじめまして。島根県松江市でパッケージシステムの販売、導入、保守を主な仕事としながら、ITCとしても活動をしている濱崎と申します。最初にお断りをしておきますが、ITCとして活動をしているというものの、それをメインに仕事をしているわけでもありませんし、私自身、独立をしたくて独立したわけでもありません。全国には様々な立場、事情でITC資格を取得した方々がいらっしゃると思いますが、もし私と同じような立場の方がいらしたとして、何らかの「独立のキーポイント」としてご参考になることがあるのであればということで、私のこれまでを振り返ってみたいと思います。
1990年4月、地元の工業高専を卒業後まず最初に体験した業界はFA(ファクトリーオートメーション)の世界でした。 工作機械の数値制御装置および産業用ロボットの大手メーカ(大企業)に就職、そこで初めてプログラミング技術を習得し、工場の無人化を実現するセルコントローラの通信プロトコルの開発に従事しました。セルコントローラとは、工場内にある工作機械や産業用ロボットに対して材料加工といった工程の指示や機材に対する加工プログラムの投入、ステータス監視を行うことで無人運転を実現、材料投入、加工、完成品の搬出に至るすべての工程を集中管理するホストコンピュータのことです。当時はNetware やTCP/IP といった通信プロトコルが世の中に普及し始めたころで、それらをセルコントローラへ搭載、実用化するというプログラム開発を行っていました。
コンピュータの世界を全く知らないでこの職場に飛び込んだ私は、職場の先輩からしょっちゅう叱られそしてこと細かに指導を受けていました。とにもかくにも絶対に不具合を出さないこと、仕様通りにプログラミングを完成させること。1つでも不具合を出せばどうなるか、場合によっては機械設備が暴走して億単位の損害が出るだけでなく、下手をすれば現場作業員の命すら奪いかねません。自分の仕事の成果が人の命を左右しかねないというマインドセットでの業務への取り組み、そして大企業ならではの組織を中心とした仕事の進め方や社員間の責任分担、ワークフローの重要性を叩き込まれた私は5年後、わけあって松江へ帰郷。地元のOA システム開発会社へU ターン就職をしました。
同じコンピュータ業界だからということで、再就職にさほど心配をしていなかった私でしたが、「FA」と「OA」、そして「大企業」と「中小企業」が実は全く別の世界であることを目の当たりにすることになります。
まず、「FA」と「OA」について。「FA」の世界では、作成したプログラムで「機械」や「モノ」が実際に動くためにとても楽しかったのですが、数字と文字でしか出力結果が出てこない「OA」システムのプログラミングは、全くもって面白くない仕事でした。その上、当時会社内はオフコンでのシステム開発がまだ全盛期で私が担当となったパソコンでのシステム開発は社内でも冷遇された状況にあったことに加え、もう1つモチベーションを下げる要因というのが度重なるシステムの仕様変更でした。
仕様変更の主な要因というのは 、プログラマの目線から見て、仕様書の曖昧さと責任所在の曖昧さとそれを補えない社内のコミュニケーション不足と当時は理解していました。前職の「大企業」でそういう「曖昧さ」が存在しない世界で仕事をしてきた自分としては、その要因での仕様変更はとても許しがたく、社内の担当SEとよくぶつかっていたものでした。それが時間がたってプログラマからSEという立場になると、今度は顧客との間でシステム仕様変更のバトルを繰り広げることになります(笑)。決まっていた仕様が目の前で軽々しく変更されてしまうという今までには考えられない出来事や、せっかく前職で培ってきた仕事のノウハウが通用しない世界に長い間ジレンマに陥り悩んでいました。
それから数年後のある日、とある顧客先に訪問した際、私と同行していたシステム導入のインストラクターが顧客に対してまるで「小学生」に教えるかのように操作方法を指導しているのを目にし、そこでハタと思いました。ずっとジレンマに陥っていた理由は、自分がずっと大企業の世界、価値観で仕事をしていたことである、ということにようやく気づいたのです。
中小企業とは同じ技能や同じ責任を負える人材がそろっているわけではない、仕事が充分にできる人もいればできない人もいる、1人が1つの専門職でなく複数の業務を兼務しながら仕事をしている人たちの集まりであること、そして会社はトップで決まること。自分の経験した「大企業」はちょっと特殊なケースだったのかもしれないけれど、そこで享受した「良い思いをした」ことが邪魔をし、目の前の中小企業という世界に対して目を背けていたのかもしれません。それ以降は顧客と目線を合わせ、顧客に寄り添い、顧客の立場に立ち返ってシステム構築を実現する、今思えばごくごく当たり前のことができるようになり、目の前が明るくなったのを思い出します。

ITC 資格との出会いと独立
その後、中小企業の業務効率化のための基幹システム構築へと仕事の軸足を移し、毎日のように客先にて業務設計とシステム導入を行っていた2001 年、「IT コーディネータ」という資格が発表になったのを耳にしました。客先の課題をシステム設計に落とし込み構築して導入するという作業を我流で行っていた私にとって願ってもない資格でありそのスキルを身につけるチャンスだと思いました。しかし、資格取得の研修日数と研修費を勤務していた会社がまかなってくれるはずもなく断念、ただ、その必要性はいつも頭にありました。
2003 年には、とあるコンサルティングファームに参加し、中小企業との向き合い方や支援方法、マインドを培い、徐々に見聞や人脈を広げていく活動を行っていき、このころから仕事の軸足はシステム構築からIT 活用による中小企業支援へ移っていきました。
2009 年、勤務していた会社が親会社に合併されたのを機に、会社全体がモノ売りの販売業務へと転換した結果、今まで行ってきたお客様へのIT 活用による中小企業支援という業務ができなくなってしまいました。これまでIT 活用支援という接点でお客様との信頼関係を構築してきた自分にとって、この状況はお客様を見捨て、裏切ることになると感じ、どうすればいいのか来る日も来る日も悩んでいました。
悩みに悩みぬいて出した結論は会社を退職し、新たに会社を設立、独立することでした。 私自身、一生会社員でいたかったので、独立するなんて夢にも思いませんでしたがメンターから「人間は簡単に餓死しない」「1年間で50万あれば生活できる」と言われ勇気をもらい(笑)
そして、今まで信頼関係を築いてきたお客様や参加していたコンサルティングファームのメンバーが親身になって私を助けてくださり、背中を押していただきました。独立するにあたり、たぬきの皮算用程度の創業計画しかなかったのですが(笑)、唯一絶対にやろうと決めていたのが「ITコーディネータ」の資格取得でした。経営課題をIT で解決をすることの手法を本格的に身に着けること、そして、独立して会社という後ろ盾が無くなってしまったとき、「IT コーディネータ」という肩書を得ることで、少しでも自分自身の身分証明になれば、と思ったのが取得の理由です。
ITCとしての現在の仕事
「ITコーディネータ」資格の研修を受け、資格取得をしてまず思ったのは、資格を取得したからといってすぐに仕事があるわけでもなく、稼げるわけでもない、ということでした。正直、もう少し具体的な手法を享受できるものと考えていたのですが実際には自分の期待通りではなく、困った私は東京にあるIT コーディネータ協会を訪ね、今度どのようにしたらいいのかを相談しました。
そこで様々な支援策や諸先輩方の活動内容などを伺いましたが、まずは様々な活動に参画し、 ITCとしてどのような活動方法があるのかを理解することから始めました。まず地元のITC団体である「NPO ITCしまね」へ加入し、県内外のITC の研修会やセミナーに参加、また地元および全国のITC との接点を持ち、先輩方の話を聞くことから始めていきました。そもそもシステムの販売や導入支援、サポートといった本来の業務の合間に行うため、どうしても時間は限られますが、その中で自分にもできることから1つずつ挑戦、実施していきました。その結果、ITCとして現在行っている主な仕事は次の通りとなります。
1.地元ITCとの協業
特に地元の独立系ITCとの間で情報交換を行いながらスキルの研鑽や、セミナーなどの企画立案運営、個別のIT 支援プロジェクトの協業を行っています。
2.支援機関における専門家派遣
各地の 中小企業団体中央会 、商工会議所、商工会、産業振興財団、ミラサポといったIT 活用支援のための専門家として自分自身を登録し、実際の派遣業務を行うとともに、支援機関の職員とのリレーションを構築し、情報交換やIT 活用のための企画の提案実施を行っています。
3.地元信用金庫との連携
ITコーディネータ協会のご協力により、2015年、島根県と県内3つの信用金庫との包括協定を活用し、県内企業向けのIT 利活用による企業支援を実施しました。具体的には県内の中小企業向けのIT 活用セミナーと個別相談会を島根県、県内信用金庫、地元ITC により実施し、2015 年以来毎年、合計4回のセミナーと個別相談会を実施しています。また信用金庫の職員向けの勉強会も開催し、実際の顧客に接する職員へのIT 活用の理解と啓蒙を実施しました。いずれの企画にも地元ITC が立案、運営を行っています。
4.IT 経営相談サロンの開設
セミナーや勉強会だけでなく、IT 活用をしたいと思う中小企業との接点をさらに増やすべく、無料で気軽にIT に関する相談を受けることができる常設型無料相談会を月に1回開催しています。開催案内を見た企業担当者が直接来場されるケースや、支援機関の職員やその支援企業が来場されるケースもあるほか、来場後に専門家派遣制度での支援につながるケースもあり、IT 活用の入り口としての役割を担っています。
こうした活動を通して思うのは予想以上にIT活用をしたいという中小企業のニーズは多いと感じます。私個人のITCとしての成果はまだまだですが、IT 活用を必要とする中小企業との接点をこれまで以上に創出することで、IT 活用による中小企業支援の輪を広げ、ITCとしての役割を果たしていければと考えています。

(ITコーディネータ協会 機関誌「架け橋」24号「独立のキーポイント」より)

濱崎 利彦 氏
ビー・アイ・サポート株式会社 代表取締役/
卸・小売業、建設業、サービス業、福祉分野におけるIT導入、およびIT 利活用による経営課題の解決を得意とする。
島根県内商工会議所および商工会登録専門家、しまね産業振興財団登録専門家、 ミラサポ登録専門家。