大学院生の授業をオンラインで。このような取り組みはITCにもチャンス − 京都市・ITコーディネータ 藤原正樹氏 −
日本最初のIT専門職の大学院「京都情報大学院大学」

情報系や経営系といった大学・大学院は日本にも数多くあるが、これら2つ以上の専門領域にわたるIT分野の技術教育において、これまでIT系の高度専門職業人育成の課題に応えることのできた大学・大学院は皆無に等しい状況だった。
そんな中で、2004 年4 月、日本最初のIT 専門職の大学院として開学したのが京都市左京区にある「京都情報大学院大学」である。この学校は、大学の学部を持たない大学院ということで「大学院大学」という名称になっている。
カリキュラムは、ICT 全般の知識と専門技術の応用能力、および社会で通用する職業人としてのマナーを、学生が身につけることを目標としてデザインされている。そして、「IT分野の高度専門職業人」として、専門性を高めるために分野を特定し、その中で基礎から応用・実践まで広く深い専門知識を獲得できるよう、分野ごとの専門分野科目群を整備している。
ERPの分野の教授として教壇に立つITコーディネータ
その大学院大学で、2019年4月から教授として教鞭を執っているのがIT コーディネータでもある藤原正樹氏だ。藤原氏は、「ERP」(Enterprise Resource Planning: 企業資源計画)の分野の教授として、ERPに関する体系的な理論とコンサルタントに必要な実践的なスキルを2 年間で習得させ、ITと経営に関する最先端の専門家として社会で活躍できるような人材を育てている。
藤原氏は、IT企業で20数年間、システムエンジニア、ITコンサルタントとしての実務経験を重ねていた2002年、ITコーディネータの資格を取得。企業向けのコンサルティングでは、ITコーディネータのプロセスガイドラインを1つの柱にして業務に取り入れていたという。
この流れから、2002年、会社に勤めながら社会人大学院に通い始め、システムソリューションを専門的に学んだ。2009 年4月に宮城大学の教授になり、2019年3月までこの大学の教壇に立った。
オンラインでの取り組みはITコーディネータにもチャンス

現在の京都情報大学院大学は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、講義は基本的にオンラインで開催されている。
「オンラインだとあまりモチベーションが上がらないと言われていますが、本学は全員が大学院生です。自分で勉強するスタイルができているので、オンラインでも良いのではないかと考えています」
一方で「オンライン授業の普及によって、新しい教育の仕方も確立しつつある」と藤原氏は指摘する。「今までは予習をしてから、講義を受けて、復習をするという方法でしたが、これからはオンラインで講義の内容を事前に動画でアップしておいて、各自勉強しておく。授業では質疑応答と議論に集中するというスタイルの“ 反転授業” が広まっていくのではないでしょうか」と語る。
そして、このようなオンラインでの取り組みは、IT コーディネータにもチャンスだと藤原氏は指摘する。
一例として、小規模企業へのクラウドERP システムの導入に際して、ITコーディネータの支援が入る余地があると藤原氏は言う。
「企業を一つずつ回っていては報酬に見合わないが、オンラインのサポートなどによって数をこなすことができ、一件あたりの報酬は少なくても、一人のIT コーディネータで10社、20 社を抱えれば十分やっていけるはず。そんなビジネスモデルができるといい」
ITC京都の活動にも精力的に参加
藤原氏は京都情報大学院大学の教員だけでなく、「ITコーディネータ京都」(ITC京都)の理事としても活動している。
最近のITC京都の一番大きな事業に京都市「中小企業IT利活用支援事業」がある。
これは単に中小企業のITの利活用に補助金を出すのではなく、IT コーディネータが専門家として申請支援を行うという仕組みがあらかじめスキームの中に組み込まれており、申請書類の作成の段階からIT コーディネータが入るようになっている。全国的にも珍しい取り組みだ。
「今回の事業の特徴は、コロナ禍であっても積極的に新たな顧客接点を求めてWeb サイトのリニューアルなどに取り組む企業が多数を占めていたことです。この取り組みを発展させるためには、顧客との新しい関係を作る必要があり、会社そのものの変革が求められる。そして、コロナ禍でも持続可能な事業にしていく。まさにそれが中小企業におけるDX だと思います」と藤原氏は言う。
今後も藤原氏は大学院大学でのIT分野の高度専門職業人の育成とともに、ITコーディネータの活動を支援する活動も精力的に行っていきたいと語る。
(ITコーディネータ協会 機関誌「架け橋」29号より抜粋)
