“自社の資源×オンライン”を切り口に人材育成を支援 − 愛媛県松前町・ITコーディネータ 玉野聖子氏 −
放送局出身。32歳のときに生まれて初めてパソコンに触った

「株式会社エンカレッジ」の代表取締役で、地元の3つの大学での非常勤講師という肩書きを持ち、地域の中小企業の支援を行っている玉野聖子氏。
玉野氏は大学卒業後、地元の南海放送株式会社に入社。報道制作本部放送部に所属し、県内各地を取材し、生放送でレポートするという仕事をしていた。そして、3年後に結婚を機に同社を退社し、6年間、子育てに専念した。
その後、再び仕事を始めようとしたが、ITのスキルがある程度なければ、再就職ができないことが分かった。そして、32 歳のときにパソコンスクールに通って、生まれて初めてパソコンの電源を入れ、WordやExcelの勉強を始めた。3年間で30近くのMicrosoft Office 系の資格を取得。
その当時の様子を「決して資格ありきではありませんが、資格取得に向けて努力することが大切ですし、資格の取得によって仕事に対する焦りのような気持ちもなくなっていました」と玉野氏は振り返る。
その後、2年間でExcel、Access、Word、XMLなどの書籍を6 冊ほど執筆した。これらの書籍はすべてテレワークで作業が進められたという。
このときのオンラインツールを使ったテレワークのノウハウや経験が、現在の事業にも大きく影響を与えているという。
創業時から常に近くにいたITコーディネータ

パソコンインストラクターの仕事として、職業訓練校の再就職支援も行っていたが、その中で玉野氏は、「人はパソコンスキルを身に付けて給料の良い仕事につくことだけが幸せではなく、その人らしい仕事人生を送るために何を考え、どう行動すればよいかを考えることが大切だと気が付きました」と言う。そして、2004年9月には現在は国家資格になっている「キャリアコンサルタント」の資格も取得した。
2008 年に「エンカレッジ」を設立。「組織づくりは人づくり」をテーマに、地元を中心に中小企業の人材育成に広く関わるようになった。そして、2011 年にはIT コーディネータの資格も取得した。
「創業の際に、手厚く支援してくれたのがIT コーディネータだったのです。ITコーディネータの方が常に近くにいたこともあり、私も経営者支援がしたいと考え、資格を取ろうと思いました」
「エンカレッジ」の大きな事業の柱に研修やセミナーの開催があるが、コロナ禍で昨年はガラッと変化した。
昨年5月の売上は、前年対比で10% まで落ちこんだ。これは対面で行う研修やセミナーのほとんどが、新型コロナの影響で延期されたことが一番大きな要因だった。
5月からオンラインでセミナーを開催

しかし、ここで玉野氏はこの状況に対応した新たなビジネスモデルを考えた。目を付けたのは、オンラインでのセミナーだった。
セミナーを始めたきっかけは、顧客である地元の法人会からの依頼だった。それまでも講座の提供はしていたが、コロナ禍で持っていた教育関係の予算の執行ができないため、スタジオでe ラーニングのプログラムを作ってほしいという仕事の依頼があった。しかし、e ラーニングも必要だが、今後は仕事にもZoom を使う機会が増えるので、オンラインツールを使うこと自体をテーマにした講座を提案した。
そして、まずは5 月にZoom の使い方のオンラインセミナーを開始し、6 月ごろからは自社独自のオンラインを使った指導やセミナーを提供している。
例えば、営業所がいくつかあるような会社でのZoom を使った拠点会議の開き方といったものから、スプレッドシートやドキュメント、フォームなどGoogle の無料サービスの使い方まで、実務に役立つ多くのセミナーをオンラインで開催している。
また、インターンシップの学生を受け入れる企業のために、オンラインでの面接の開き方や注意点、そして学生とのコミュニケーションの取り方などを教えるセミナーも開催。そこではオンラインでロールプレイングも行ったという。
いま持っているものをいかに高めていくかが重要
そして現在、大きな案件として取り組んでいるのが、3月に開催される愛媛県西条市のオンライン合同説明会である。西条市では市をあげて取り組んでいるイベントだ。昨年6 月に、西条市の職員がセミナーを受けてくれたことをきっかけに、市からこのイベントへの協力を依頼された。
「愛媛で、最初にオンラインセミナーを提供できたという自負があるので、このようなオンライン関連の仕事が増えているのだと思います」と語る玉野氏。そして、現在の「エンカレッジ」の主力はこの“ 自社の資源×オンライン” という事業だという。
「オンラインはあくまでツールです。オンラインを使って、何を実現したいかということをきちんと聞き出すようなコンサルを心がけています」と玉野氏は言う。
最後に、コロナ禍で苦労しているITコーディネータに向けて何かメッセージはないか、玉野氏に聞いてみた。
「新しいものにチャレンジしてもいいのですが、私の場合、まずは“ 自社の資源×オンライン” を考えました。自分がいま持っているものを、いかにオンラインを使って高めていくかが重要だと思います」
(ITコーディネータ協会 機関誌「架け橋」29号より抜粋)
