新常態だからこそ一人一人と向き合う

昨今の新型コロナウィルス禍の中、精力的にIT経営支援活動に取り組んでいらっしゃるITコーディネータの方へ、現在の活動等についてお話を伺う機会を頂きました。

野村 真実 氏は、大手ITベンダーのSE・PMとして20年間勤務後、社内ベンチャー制度を利用して独立されました。ITコーディネータ3名で中小企業を支援する組織を立ち上げ、現在では、様々な企業、団体への支援を行っていらっしゃいます。

今回は、野村 氏にオンラインミーティングで、最近の活動状況など、ざっくばらんにお話を頂いております。以下にてインタビュー内容をご紹介いたします。

この先の10年「原点に立ち返る」

【ITCケース研修事務局】本日は、お話をお伺いする機会を頂き、誠にありがとうございます。まずは、野村さんの近況についてお伺いできますでしょうか? 

【野村氏】私が代表理事を務めております一般社団法人 中小企業IT経営センター(CIMC)は、来年が設立10周年目にあたります。

現在、この機会にあたり、次の10年のビジョン作りを進めています。

色々と試行錯誤しながら、検討しておりますが、これからの10年は、原点に立ち返り「中小企業のIT経営を推進する」ということを軸として活動したいと考えています。

最近、当法人のメンバーがオンラインで実際の顧客企業とやり取りする様を、横で見ている機会があったのですが、その際に、ノウハウをうまく伝えられていないな、と正直感じました。

関連して、今までを振り返ると、専門的なティーチングやアセスメントではなく、コンサルティングをできる人間をきちんと育てていない反省があり、改めて「現場でのコンサルティング業務がきちんとできているか?」という自分たちへの問いかけをしています。

この課題対応は一朝一夕ではできないことですが、中小企業の現場で、しっかりとIT経営コンサルティングできることは我々のベースとなります。今後は、お客様にご満足いただける支援ができ、更に良い会社を増やすことができる人材の育成に真剣に取り組んでいきたいと考えております。

一方で最近は、中小機構様の「IT経営簡易診断」ツール開発のご支援を致しました。「IT経営簡易診断」ツールとは、専門家との3回の面談を通して経営課題・業務課題を全体最適の視点から整理・見える化し、IT活用可能性を診断することが可能なものです。

(参考URL:https://www.smrj.go.jp/sme/enhancement/diagnosis/index.html

昨年度は試行段階でしたが、今年度は、診断対象企業を全国に増やす取り組みを実施しており、現在は、実際に面談を実施する専門家への教育係としての役割で活動しています。

その他、このようなご時世のため、ZOOM等のオンライン会議ツール・セミナーツールの導入・活用支援なども行わせて頂いております。

オンラインでもノンバーバルコミュニケーションが大事!

【ITCケース研修事務局】現場でのコンサルティングを今一度、見直していらっしゃるとのことですが、昨今のコロナ禍の状況の中で、リアルで実際に対面してコンサルティングをすることと、オンライン等で遠隔で行うこととの主な違いなどは如何でしょうか?

【野村氏】リアルでは、相手のしぐさやその場の空気感など掴みやすい面もありますが、オンラインではなかなか難しい面もあると思います。

確かに一般的なオンライン会議ツールでも、相手の顔は見えますし、声も聞こえます。ただ、オンラインであると、多くの人は、相手の表情や内面の感情など「場の空気」をあまり気にしなくなるような気がします。

ですが、例え、オンラインで行う場合であっても、相手の表情を見たりなどのノンバーバルコミュニケーションの部分が重要になると思います。

特に経営者は、このようなコミュニケーションの在り方や相手の反応などに敏感であり、ビジネスを進める上でも重要視しています。

お客様から信頼を得るためには、知識だけ提供すれば良いわけではありません。

オンラインであったとしても、適切なノンバーバルコミュニケーションが取れるように、多くの経験を積む必要性があると感じています。

オンラインのコミュニケーションはこう行うべし!といった確かな解は、私自身もないのですが、少なくとも、我々は、そこを常に意識して、試行錯誤を続けていくことが重要なのだと考えております。

一人一人と向き合う

【ITCケース研修事務局】最近のテレワークなどのIT技術動向などを見ると、目覚ましいものがあり、ツールの機能も多岐にわたっています。プロダクトベンダーも比較的機能面などをアピールしている傾向がありますが、根幹の部分では、オンラインであったとしても人間力が重要になるのですね?

【野村氏】そうだと思います。

ツールの機能性や利便性も重要ですが、結局は人が使うものですので、何を目的として、どう使うかが重要になると考えております。

例えば、ケース研修の受講生の方でも、何を目的として、どういったことを実現したいのかによって、インストラクター側の対応は変わると思います。受講生が10人いれば、一人一人の考え方も方向性も違います。

運営上の課題もあるかもしれませんが、インストラクター側は、それぞれの受講生の思いをある程度理解しておくことが重要と思います。

私の場合、大学院で社会人の学生相手に研修を行うことがあり、最近は、オンラインで研修を行う機会も増えています。最近では、直接対面で学生と会う機会は減っていますが、たとえ、直接、話を聞くことができなくとも、学生の考えを知ることは講義を行う上でも大切だと感じます。例えば、カリキュラム内の課題の中に、論文提出があるのですが、その内容を聞くだけでも、学生の目的意識や考えをある程度理解することができます。

ニューノーマル時代に入り、今後は、研修にしろ、お客様へのコンサルティングにしろ、特に「一人一人と向き合う」ことが重要になってくると考えます。

【ITCケース研修事務局】最近のコロナ禍の状況で、野村さんご自身、あるいはお客様やパートナーを含め、ビジネスに対する変化はありますでしょうか?

【野村氏】最近取引のある支援機関関係者の方々は、強い危機感を持ち始めています。

中小企業を支援する側の立場とすると、如何に企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していくかは、今やビジネス競争力のキーワードとなっており、その相談も増えています。

もはや、業務の中でITを利活用していくことは必須条件となりつつあり、どうしてもその議論になります。

また、支援を受ける側の中小企業においても、様々な業態、レイヤーに分かれています。

経営者によっても、ITを業務効率化に使いたいのか、あるいは、ITによるビジネスモデルの変革までを行おうとしているかなど、考え方に関しても、大きな温度差があります。

ITコーディネータをはじめとして支援する側の人間は、ユーザー企業が何を求めていて、真の課題はどこにあるのかをしっかりと把握する必要があります。

単にITツールを導入することで解決する課題は少なく、これも先ほどの話と同じですが、本当の課題解決のためには、一人一人に向き合うことが重要になってくると考えます。

【ITCケース研修事務局】ありがとうございます。最後に、今後ITコーディネータを目指す方へメッセージをお願いいたします。

【野村氏】私自身、お客様と対話をしていくことを何より重視しています。

コロナ禍前では、お客様では「ITを使わなければ・・・」と問題意識を持っている方も多かったのですが、現在では「ITどころの話でない!」という意識に変わっている経営者もいます。中には、事業を続けるか否かの判断を迫られる厳しい経営状況に置かれている企業もあります。

逆に従前よりIT利活用に取り組んでいる企業では、事前にしっかりとした準備がなされており、今回のコロナ禍状況に応じたBCP対策も立てられているケースもあります。

ただ、多くの企業は、この状況下で、在宅ワークの推進などを場当たり的に対応していることが多いのも事実です。

このように、コロナ禍の状況であっても、企業が抱える課題は多種多様です。

これに対応するには、経営者や関係者との対話を通じて相手を知り、適切なIT経営を推進する必要があります。ITコーディネータは、それが実践できる唯一無二の人材だと考えております。

今多くの中小企業経営者が、目先のことに精いっぱいな状況で、多くの課題を抱えて悩んでいます。

ITコーディネータは客観的に課題を整理し、ITを如何に活用していくか、進むべき道の選択肢を示してあげる必要があります。

具体的なIT経営支援は、ベンダーであっても中小企業診断士でも、難しい領域です。

ただし、ITコーディネータには、IT経営推進プロセスガイドラインがあり、これは支援活動を進めるための重要な道標となり、大きな強みとなります。

ITコーディネータ資格取得は、これからのIT経営支援活動をするための第一歩となるでしょう。

今だからこそ、自分に何ができるかを改めて問い直し、今後の活動に取り組んで頂くことを願っております。

私自身も、志を同じくする仲間の輪を広げ、一つ一つの仕事に取り組んでいきたいと考えております。

【ITCケース研修事務局】本日は、ご多忙中に貴重なお話を頂き、有難うございました。


野村 真実 氏

2003年ITコーディネータ資格取得。
鹿児島県出身。日本ユニバック(現日本ユニシス)に20 年間勤務。ITC 資格、MBA を取得し、社内ベンチャー制度で2007 年に独立。2011 年一般社団法人 千葉IT 経営センターを立上げ、代表理事に就任。中小企業IT 経営センター(CIMC)に改名し、現在に至る。